不死身の俺を殺してくれ

 救急車両や警察車両のサイレンが、何処か遠くで鳴り響いている。

 目蓋をゆっくり開いていくと、視界に映るのは無機質なコンクリートの天井だった。

 そうか、俺は……無意識の内に、ここまで逃げてきたんだな。

 酷く痛む身体に苦痛で顔を歪ませながら、煉は仰向けに倒れたまま辺りを見渡す。そこは見覚えのある場所だった。

 煉が逃げ込んだ先は、以前、黒猫が川に流されていた橋の下だった。今はすっかり葉の長い草が覆い茂り、身を隠すには丁度よい場所になっていた。

 先程、自身の視界に映り込んでいたのは、おそらく橋の裏側の部分だったのだろう。

 あの子は助かったのだろうか。大きな怪我をしていなければいいが。
 
 煉は橋の裏側のコンクリート面を眺めながら思う。
 
 本当ならば保護者が到着するまで、あの子の側にいられたら良かったのだろうが、正体が発覚してしまうことを恐れた俺は、朦朧とした意識で、あの場から逃げ出し、いつの間にか此処まで来てしまったようだ。

 煉は身体に力を入れ起き上がろうとする。だが、それは叶わなかった。力が入らずに虚脱感に襲われる。

「な……ぜ、だ……」

 煉は苦悶の表現を浮かべて、自身への疑問を口にした。

 そこで、初めて気がついた。

 傷の治りが遅いことに。

 動揺に瞳が揺れる。

 こんなことは不死身となった日から、一度だって経験をしたことはなかった。

 いつもなら数時間で癒えていく擦過傷も、未だ塞がらずに疼いている。

 骨折や深い裂傷を負ったとしても、本来ならば数時間で傷が塞がり、そして数日間の内に損傷した箇所が全て完治するのだが、今はその傾向すら何も感じられない。

 俺は……死ぬのか? ここで?

「まだ……死ね……ない」