「危ないっ!!」
煉は車道に飛び出しながら叫ぶと、孟スピードで迫るトラックに恐怖し、車道の真ん中で立ち竦んでいた小さな女の子を庇うように抱き上げる。
瞬間。煉の身体に激痛が走る。
久し振りの感覚に、呻き声を上げる余裕さえなかった。衝撃で背骨が砕けるような、熱い痛みが瞬時に身体全体に広がる。
思い出したくない感覚に意識が揺らいだ。
ああ、そうだった。
俺は死ねないんだった。
どうして忘れていたんだろう。
大きな衝突音と悲鳴のようなブレーキ音を聞きながら、煉は硬いアスファルトの上に容赦なく打ちつけられる。
それでも煉は、小さな女の子を守るために、腕に込められたその力を決して緩めることはしなかった。
自分の身体が少しでもクッションとなり、女の子への衝撃を和らげられるのなら、それでいいと煉は思っていた。
どうやら俺は、少し平和ボケし過ぎていたみたいだ。
いつだって、どんなときだって、俺は死ねなかったじゃないか。
どうして、どうして、そんな大事なことを俺は忘れていたんだ。
このままじゃ、きっと誰かに見つかってしまうな。
そしたら、俺はあいつに恐れられ見捨てられてしまうのか。
気味が悪いと。
さくらの笑顔が脳裏に浮かぶ。
裏表のない、子供のような無邪気な笑顔を。
その笑顔を、悲しみに染めてしまうようなことは絶対にしたくない。
だから俺は、誰かが此処に駆けつけて来てしまう前に、この場所から離れなければならない。
本当はこの時代に存在してはならない自分を、誰にも気付かれないように、自分が此処にいたという証拠を、抹消しなければならないんだ。
「だ……いじょうぶ、か……?」
煉は自分の胸に強く抱きしめていた女の子を、腕の力を緩めて解放する。
だが、その子は未だに状況が理解出来ていないのか、泣き喚くことすらせずに、ただ、呆然と虚空を見つめていた。



