不死身の俺を殺してくれ

 さくらが就寝した後、煉は一人リビングで先程の出来事を反芻していた。
 
 俺が不安に駆られるなんてらしくないな。

 そう思いつつも内心は、さくらの帰宅が遅いことに煉は不安を覚えていた。

 そんなに気になるのならば、メールの一通でも送れば良かったのだろうが、さくらが俺以外の他の誰かと外食を楽しんでいるのならと思うと、そんな不粋な真似は出来なかった。

 時計の針が日付を跨ぐ、約十分程前。
 結局、痺れを切らした煉は帰りが遅いさくらを探しに行くことに決めた。それが今から約一時間前のことだった。

 だが意外にもさくらは、すぐに見つかった。

 煉がマンションから外に出ると、約数メートル手前、さくらは見知らぬ男と共に暗い夜道を歩いていた。時折、街灯に照らされるさくらの表情は何処か暗く寂しげにも見えた。

 さくらの姿を見付けて煉は、ほっとしたような感情と共に、少しだけ心がモヤついたような感情が滲む。

 あいつに何かされたのか? いや、それならば一緒には帰ってはこないか。

 煉がさくらの名を呼ぶと、二人は俯いていた視線を暗闇に溶け込んでいる煉に向けた。

 そのときに煉は、さくらの隣にいる男の顔に見覚えがあることに気が付いた。

 ああ、確か。あの時の。会社の同僚だったか、後輩だったか……。

 他人に興味を持たない煉が、珍しく朧気に覚えていた相手だった。

 相手は俺を見るなり、途端にくしゃりと顔を歪めていたのを覚えている。何故、相手は俺を見る度に泣きそうになるのか、そこは未だに疑問に思うが。
 
 そして先程、無事に帰宅したさくらは煉に促されて素直に就寝したのだった。

「はぁ……」

 やはり、さくらには飲酒を自重してもらいたい。煉はため息を溢しながら、尽きない悩み事を胸裏で思っていた。

 ◇

 翌日の早朝。

「おはようございます。昨日渡しそびれてたんだけど、これ……煉に」
 
「おはよう。……これは鍵か? 何のだ?」

 朝の身支度を終え自室から出てきたさくらは、挨拶をすると煉の顔色を窺いながら、おずおずと何かの鍵を差し出した。