不死身の俺を殺してくれ


 さくらの隣で表情を強張らせていた八重樫は、煉の姿に気付き、ようやく合点したように声を上げた。

 話し込んでいて二人は気が付かなかったが、さくらのマンションまでの道のりは既に目前に迫っていた。
 
 煉が何故、外にいたのか、さくらは理由が解らずに首を傾げる。

「あまりにも遅いから何処かで寝込んでいるのかと思ったんだが、違ったか」

 そう言いながら煉は、さくらに近付くと手を引いてマンションへ連れ帰ろうとする。

 そんな一連の行動を呆けたように見つめていた八重樫は、ハッと我に返ると何も考えずに煉に声を掛けた。

「あのっ!」

「さくらが迷惑を掛けたようで、すまない。助かった」

 煉が振り返り際に八重樫に一言だけ言うと、さくらを連れてマンションの中へと消えて行った。

「親戚って、言ったじゃないですか……」

 夜道に突然一人取り残された八重樫は、そう悲しそうに呟くしかなかった。

 ◇

「取り敢えず、飲め」

 煉に連れられ自宅マンションに帰宅したさくらは、リビングの床に大人しく座っていた。

 ローテーブルに置かれたのは水の入ったグラスで、煉がわざわざペットボトルから水を注いで渡してくれたようだ。

「頂きます……」

 何だか、とても居心地が悪い。先程までの八重樫との楽しかった宴の時間は、煉の登場により一瞬にして覚めてしまった。

「…………」

 煉は怒っているのだろうか。

 さくらは何となく顔を上げるタイミングを失い、俯いたまま視線をさ迷わせていると、煉がぽつりと言葉を溢した。

「心配した」

「え……」

 さくらは思わず顔を上げて、煉を凝視してしまう。まさか、あの煉からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

 嬉しさよりも驚きが胸裏を占める。

「何だ。おかしなことでも言ったか?」

「ううん。何でもない」

 煉はさくらに見つめられ、居心地が悪いのか視線を反らす。

「今日はもう遅い。早く寝ろ」

「うん、そうします」

 てっきり、煉に説教をされるのかと戦々恐々としていたさくらだったが、そんなことはなく何だかすっかり拍子抜けしてしまった。