不死身の俺を殺してくれ

 程良く酔いが回り始めたさくらは、ビールジョッキを傾けながら、ふと大学生時代の思い出に馳せる。

 確かあの時は、八重樫くんに危ない所を助けて貰ったんだっけ。

 ◇

 大学の新入生歓迎会と称した飲み会に、人数合わせとして合コンに呼ばれたさくらは、他の女性達が次々と酒に酔い潰れていくのに対して、一人だけ平然と酒を煽り続けていた。

 そして一度、御手洗いに向かうために席を立ち再び戻ると、その間に席替えをしたのか、さくらの向かい側の席には八重樫が座っていた。

 だが、さくらは八重樫に興味を持つことはなく、その視線はテーブルに注がれていた。

 さくらの席のテーブルに置かれていたのは、席を立つ前に自身で注文していたウイスキーのグラス。

 そのグラスに手を伸ばしたときだった。

「飲まないでください」

 八重樫がさくらにだけ聞こえるような小さな声で、そう制したのだ。

 さくらは訝しげに八重樫を見つめる。

 いくら酒を飲んでも酔わないさくらに、もしかしたら八重樫は半ば辟易していたのかもしれない。

「すみません。さくらさん、酔ったみたいなので俺が送っていきます」

 グラスに手を伸ばすのを止め、そう思考していると唐突に八重樫が周りに宣言するように言い放つ。

 周りがざわつく。特に男達が八重樫に対してあからさまに舌打ちをしている光景が見えた。

「え? ちょっと待って──」

「行きましょう」

 八重樫は声を荒げている男達の文句を苦笑して聞き流しながら、さくらの腕を少し強引に引いて店の外に出る。

「何?」