不死身の俺を殺してくれ


「俺、今研修期間中なんですよ。なので、さくらさんの方から連絡して貰えると助かります。連絡先は変わってないので」

「あ、気が利かなくてごめんね」

「そんな事ないですよ。それじゃ、俺は先輩方の所に行きますね」

 社員食堂で鮭定食を選んだ八重樫は、定食セットのトレイを手にすると先輩と相席するために、さくらにそう告げテーブル席へ向かって行く。

 さくらは天ぷら蕎麦を選び優の元へ向かうと、優はきつねうどんを選んでいたようで先に食事をしていた。

「お話はもう済んだの?」

「まぁ、何とか……ね」

 結局、八重樫との話は持ち越しとなってしまったが、さくらには最終手段がまだ一つだけ残っている。

 ただ、それは八重樫がその誘いを了承することが前提で、少しだけ不安が残る。恐らく大丈夫だとは思うが。

 そして、こんな時でも優は持ち前の心の広さで、さくらが自分から話を打ち明けるまで興味本位に話を聞いてくることはない。

 そんな優しさが今はとても有り難かった。
 
 後でちゃんと白状します、と胸裏で思いながら、さくらは食事を始めた。

 ◇

 午後の業務が始まる約十分前に、さくらは八重樫にメッセージを送っていた。

『七時半頃に居酒屋で』

 携帯で無料メッセージアプリの画面を見つめながら、さくらは自分自身に対して呆れていた。

 もう少し可愛らしい文章を打てないのかと自戒する。これでは只の業務連絡だ。

 煉の無愛想なメールの相手をしている内に、さくらにもその癖が移ってしまったのかもしれない。

 数分後にメッセージが既読になり、八重樫からの返信が届く。

『分かりました。今日は研修が早く終わりそうなので、会社のロビーで待ってますね』

 文章と共に可愛らしい敬語のキャラクタースタンプが一つ添えられていた。

 これで後は残業にならないことを祈るのみ。

 そして、昼食から戻って来た上田課長は、何故か午前中とは打って変わり、やる気を出していた。

 他の社員からこっそりとその理由(わけ)を聞くと、昼休みに愛しき娘から謝罪の電話がきたらしい。