「ひっ!」
八重樫はさくらの隣にいた煉に気付き目線を向けるも、ものすごい目付きで睨み付けられ反射的に怯えた声を出した。
「ん? 八重樫くん、どうかしたの?」
何故か顔を青ざめさせている八重樫を不思議に思い、さくらは一歩退いて自身の背後にいる煉の方へ振り向く。
そして煉の姿を目にした瞬間、さくらは八重樫に対して申し訳ない気持ちが湧き上がると同時に呆れる。
何故なら、煉が眉間に深くシワを寄せ八重樫を凝視していたからだ。相手を物凄く睨み付けているようにも見えた。
只でさえ煉は普段から雰囲気が怖く感じるというのに、突然何の理由もなく思い切り睨まれたような視線を向けられれば、性別など関係なく誰だろうと怖いだろう。
さくら本人はそんな煉の姿も見慣れているため平気だが、初対面の八重樫はそうではない。だから怯えてしまうのも無理な話ではなかった。
「さくら、この男は誰だ」
「会社の後輩の人よ。煉、お願いだから八重樫くんを怖がらせないで」
煉に凝視され居心地が悪そうに、視線をさ迷わせる八重樫。さくらは煉を諭すように言うも目付きは変わらずに鋭いままだ。
「別に怖がらせてはいない」
八重樫は街中の歩道で言い合っている二人を交互に見比べる。そして恐る恐る控え目な声音で疑問を口にした。
「……もしかして、さくらさんが交際されている……お相手の方、ですか?」
その言葉に、さくらの思考はぴたりと停止した。



