やはり、この女は何処かおかしいと思う。

 それでも、はっきりとこの女を拒絶出来ないのは、この女と何度か接している内に、俺も何処かおかしくなってしまったからなのか。

 思わず笑いがこみ上げてしまう。

 毎回考えなしで、お節介で、世話好きな、この女を俺は少しくらいなら信じてもいいのだろうか。

 出来ることなら俺はもう二度とあの時のように誰かに情を抱き、そして失うという悲しみを、後悔を、味わいたくはない。

 独りで生きていくのならば、そんな無駄な感情に振り回され、大切な人を失う悲しみに怯えることはない。

 そう、心に決めて生きてきた。
 
 それなのに、煉はさくらと接していく度に、その観念をことごとく崩されていく。

「出て行くな、ということか?」

「そう、です……」
 
 さくらは煉を見上げていた視線を逸らし、酷く弱気な声音で返答する。
 
 この女が何故これ程までに必死になり、俺を引き留めるのか理由が全く思いつかない。ただ、一つだけ解るのはこの女に害はないということだ。
 
「だが、俺は生憎(あいにく)訳ありだ。しばらくは働けないし、安易に外を出歩けない。そんな俺が、何時までもここにいる訳にもいかないだろう」

「理由があるのなら、別にそれでも構いません。い、家にいてくれれば、私はそれで……」

 そう言いながらも、何故かさくらの顔はみるみる赤らんでいく。
 
「……本当にいいんだな?」

 煉は小さくため息を溢し、さくらに改めて念を押すように問う。すると、さくらは顔を赤らめたままこくりと静かに頷いた。