この際だ。聞けることは思い切って聞いてしまおう。そう思考したさくらは、お互いの空腹を満たしながら、昨日の空白の記憶を煉から聞き出すことにした。

 ちなみに煉が夕食に選んだのは味噌味のカップ麺だった。お湯を入れ、麺が仕上がるのを待っている間、自分だけが先に食事をする訳にもいかず、こちらから話題を振る。
  
「今日一日、何をしてたんですか?」

「これを読んでいた。実に興味深い内容だった」

 そう言い煉がさくらに差し出したのは、女性向けの夏の風物詩的雑誌。大人の男女が裸で抱き合っている官能的な表紙の雑誌だった。

 さくらが去年の夏、何となくコンビニで購入して、そのまま処分するのを忘れていた物だ。

「……それは、よかったですね……」

 煉に真顔で言われると恥ずかしさより、何処か言い様のない気まずさがこみ上げてくる。

「お前はこういうのをよく読むのか?」

「違いますよ! たまたまです」

 ここで煉に変な勘違いをされても困る。さくらは、思わず少し声を荒げて抗議する。そして、これ以上この話を広げられないように、話題を反らした。

「昨日はすみません。酔ってたみたいで……。私、煉さんに何かしませんでしたか? その辺りの記憶がないんです」

「髪を触られたな」

「髪、ですか?」

 煉にそう言われたものの、やはり覚えていない。 そもそも、何がどうなって煉の髪の毛を触ることになったのか、切っ掛けさえ何も思い出せないのだ。

 ここは素直に謝るしかないだろう。さくらは申し訳なさそうに頭を下げた。

「本当にすみません……」

「……猫耳」

「え?」