不死身の俺を殺してくれ

 朝からの二日酔いもようやく落ち着き、午後の業務も無事に乗り越えたさくらは、オフィスの壁掛け時計を見やる。

 時刻は午後六時半頃だった。

 周りの社員達を眺めると、残業の気配はなく、今日は久々に定時で帰れそうだと内心嬉しくなる。

 そんな嬉々としたさくらの気持ちを察したのか、優はパソコンの電源を落とし、デスク周りを整理整頓しながら、さくらに優しく問いかける。

「さくら、たまには休肝日も必要だよ。……あまり飲み過ぎないでね」

「うん。気をつけます……」

 優は恐らく、さくらのここ最近の不自然な態度の変化に気がついているのだろう。連日の二日酔いがそれを物語っている。それでも、あえて追及はしないのが彼女の優しさなのかもしれない。

「お疲れさま。また、明日ね」

 さくらは優が先にオフィスを出て行くのを見送った後、電源の落とされたパソコンの画面を眺めながら静かにため息を落とした。

 折角、今日は定時で帰れそうだというのに、気分が少し憂鬱なのは、昨晩と今朝のことが原因だと理解している。
 
 マンションに帰宅すれば、きっと彼はもういない。

 何故、昨日の内に煉の連絡先くらい聞いておかなかったのかと自分自身を叱咤するも、後悔は先に立たずだった。

 仕方ない。今日は早く帰って、久し振りにお酒も我慢してゆっくり寝よう。

 会社を退勤した後、何時ものように帰宅途中の近場のコンビニで、夕食用の商品を購入する。今日はナポリタンと小さなコーンサラダパックを選んだ。お酒コーナーで一度立ち止まるも優の言葉がよぎり、今回はお酒を諦めることにした。


 自宅マンションに到着し、エレベーターが自身の部屋の階まで上昇していく。

 そして、部屋の扉を開けた。

 だが室内は照明が点灯しておらず真っ暗だった。やはり彼は、煉は既にこの部屋を出た後のようだった。

 さくらは、少し落胆しながらも真っ暗闇のままの玄関でパンプスを脱ぎ、慣れた足取りで短い廊下を進む。

 壁に備えられているスイッチを押して、リビングの照明を灯した。

「……っ!?」

 すると、そこに見えたのは。