不死身の俺を殺してくれ


「え?」

「名前。煉。お前は」

「あ、私は原さくらです」

 失念していた、というような表情を浮かべ、さくらも丁寧に自身の名前を名乗る。
 
 三回目の邂逅により、二人はお互いの名を初めて知った。最初の出会いから時は約一ヶ月ほど経過していた。その間の互いの印象はどちらかといえば良くない。

 煉は、さくらの思惑を掴めずにいた。

 今まで煉に声をかけてきた女の大半の理由は、身体の寂しさを埋めたいというのがほとんどだった。中には、ただ単に異性の話し相手が欲しいだけという女もいたが。
 
 部屋に一泊させるからという交換条件で、利害が一致した見知らぬ女と夜を共に過ごす。

 一時期はそんな荒れた日々を過ごしていた。

 だから煉はさくらのことも、今まで出会ってきた女達と同類だと思っている。

「要件はなんだ」

「……要件? 特にない、ですけど」

 なら、この女の目的は一体何なんだ。

 もしや、新手の詐欺か。
 ……まさか、美人局か。

 煉が思考の海に潜り込んでいくほどに、眉間のしわが深く刻まれていく。端から見れば睨み付けているどころの話ではない。寧ろ、その視線で殺人が出来てしまうのではないかと言うくらい、煉の顔つきは恐ろしい表情になっていた。

 だが、さくらはそんな煉の表情を見ても動じず、一本目の缶ビールの蓋を開けていた。

「いただきます」

 そしてさくらは両手を合わせて、丁寧に食事の挨拶をしてから、コンビニ弁当を食し始めた。

 勝手に弁当を食べ始める前に、人の話を聞け。

 俺の存在は無視か。

「帰っていいか」

 少し屈辱的な気分を覚えた煉は、幸せそうに食事をしているさくらに問う。すると、さくらは食事していた手を止め静かに箸を置く。

「あ、あの。アパートを追い出されたって言ってましたけど……これからどうするんですか?」

「さあ。考えてない」

 元より、お前には関係ないはずだが。と言いたい衝動を煉は堪える。

「そう、ですか……」

「何だ。言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ」

 煉は何時もとは違う展開に少々戸惑う。よくよく思えば、この女は自分から誘ってくるような性格ではなさそうだ。

 なら、自分からまた誘導すれば良いのか。そう独り考えあぐねていると、さくらは既に二本目の缶ビールに手を伸ばしていた。