不死身の俺を殺してくれ

 つくづく、この女は馬鹿なんだろうなと、煉は小さな一人用のローテーブルを挟んで、向かい合っている女を見つめながら胸裏で思う。

 この女は一度、俺に押し倒されたことがある。それを忘れてはいないはずなのに、何故かこうしてまた懲りずに俺を部屋へ招き入れている。

 まあ、大抵の女が望むことなんて、解り切ってはいるのだが。しかし、この女からはそんな気配が微塵も感じられない。ただ単に世話焼きなのか。生粋のお人好しか。

 呆れを通り越して最早、何がしたいのか皆目検討もつかない。

 さくらはコンビニ袋からぬるくなった缶ビールを取り出して、煉にその一本を差し出した。

「……ビール飲みます?」

「いや、酒は飲まない」

 そんなことより、さっきまでの威勢はどうした。俺に対して意気込んでいただろうに。

 煉がこうして再び、さくらの自宅へ訪れることになったのは、公園でのさくらの言動が原因だった。

『アパート追い出されて行き場所がないなら、私の部屋に来ます……か?』

 新手のナンパか。

 この女には警戒心というものが備わっていないのか、それとも故障中で機能していないのか。

 女は自身がコンビニで購入してきた弁当をテーブルの上に置いたまま、何故か硬直している。何を緊張しているのかは解らないが、今さらそんな態度をされても、こちらとしては反応に困る。

「……煉だ」

 暫しの無言に耐え兼ねた煉は、仕方なく自分から名乗り出た。そこでようやく、さくらは伏せていた視線を上げ煉を一瞥する。