不死身の俺を殺してくれ

 結局、今日も仕事を終わらせるのに時間が掛かってしまった。今日も今日とて上田課長の逃げ足は早く、気がつけば他のどの社員よりもいち早く退勤していた。

 さくらは会社から外に出ると、すっかり暗くなった夜空を見上げる。

 そういえば、あの男はどうなったのだろう。ふと、そんな思いが頭をもたげる。確か、アパートを追い出されたとか言っていた。まあ、最初に会った時点で、かなりの要注意人物なのは変わりはない。

 少しだけ。……ほんの少しだけ、公園を覗いて帰るだけなら問題はないと思う。

 さくらは自身に対して言い訳をして、マンションに帰宅する道すがら、公園を覗いて帰ることにした。
 
 昼休みに優と利用した公園は、会社から直線で徒歩十分程の距離にある。

 公園に向かう前に、コンビニに立ち寄り夕食用の唐揚げ弁当と缶ビールを二本購入して店を後にした。

 小さな公園には、心許ない外灯が幾つか点灯している。

 三月に入り、日中の寒さは少し和らいだが、やはり朝晩は冷える。それを、あの男は野宿で過ごすのではないのかと、さくらは半ば不安に思っていた。

「……さすがにいないよね」

 さくらは昼に男がいたトイレの裏手側の茂みを覗き見る。だが、そこに男の姿はなかった。

 少しの落胆と安堵。

 ほっとしたような、残念なような複雑な感情を抱きながら、踵を返して自宅へ向かおうとしたときだった。

「あ」

 その姿がふわりと暗闇から現れ見えたのは。