不死身の俺を殺してくれ


「今日はどうして此処にいるんですか?」

「……お前に言う必要はない」

 まあ。そうなんですが。
 
 この男は相変わらず、突っ慳貪な物言いしか出来ないようだ。

 にしても、今日もまた随分と服が汚れているような気がする。今回は血痕汚れではなく、土埃のような汚れが服の所々に付着している。

 まさか。また川にでも飛び込んだのだろうか。この男なら有り得ない話ではない。実際、猫を助けるためとはいえ、真冬の川に飛び込むという無謀を起こしている。

「もし、怪我をしているなら、変な意地を張らないで、素直に病院にでも行ってください」

「怪我はしていない」

 男は心底迷惑そうな表情で、さくらを見上げる。その鋭い漆黒の瞳には絶対的な拒絶が、そこに宿されていた。

「じゃあ、なんで……」

 前屈みになりながら半ば諦め気味にさくらが問うと、男は少し俯き不貞腐れたように答える。

「追い出された」

「は?」

「家賃が払えなくてアパートを追い出されたんだ」

 さくらは呆然とするしかなかった。いい歳をした大人がアパートの家賃すら払えないとは、一体どういうことなのか。呆れて何も言えない。

 色んな意味で頭痛がする。

 この人、一体どんな生活してるのよ。

 呆れ果て何気なく、腕時計を確認すると、時計の針は午後十二時五十分を指していた。

「って、ああっ!! 昼休みが終わってしまう!!」

 正直に言うと男のことは気になる。家賃が支払えなくなった理由も、聞けるなら聞きたい。だが、早く会社に戻らなければ、午後からの業務に支障をきたしてしまう。後ろ髪を引かれる思いで、さくらはその場を離れることにした。

「……早く行け」

 男はさくらの視線から顔を背け、突き放すように言った。