「この唐揚げも手作り?」
「そうだよー。味どうかな?」
優の説明を聞きながら、さくらは唐揚げを箸で持ち上げ、自身の口に運ぼうとする。
が、しかし。
あることに目を奪われ、無意識に動きが停止した。
箸を持ち上げていた力が弛緩し唐揚げが、ぽとりとご飯の上に落下する。
「さ、さくら? ……唐揚げ嫌いだったっけ?」
「…………え? ち、違うよ。唐揚げ大好き大好物」
そう言いながらも、さくらの視線は公園内のトイレ方面に集中している。
またか。瞬間的に思ってしまった。
さくらの視界に映ったのは、あの見覚えのある男の姿だったからだ。
これで三回目だった。彼はさくらの行く先々にいつも唐突として現れる。何の因果かと疑わざるおえない偶然だった。
「え、えっと。じゃあ改めて……頂きます!」
さくらは気を取り直して、ご飯の上にぽつんと鎮座している唐揚げを、再度箸で持ち上げると自身の口元へと運んだ。
うん。文句など一つもないくらい、とても美味しい。味付けも濃すぎず、薄すぎず。これなら優の彼氏もきっと喜んで食すに違いない。
そして、あの男のことは気にしたら負け。
さくらはそう自身に言い聞かせ、意識をお弁当に集中させると黙々と箸を動かした。
雑談を交わしながらゆっくりと時間をかけて、優のお弁当を食したさくらはベンチから、おもむろに立ち上がると優に礼を述べる。
「優、お弁当ありがとう。本当に美味しかった。これなら彼氏も絶対喜ぶよ」
「よかったぁ。こちらこそ、食べてくれてありがとう。さくら」
「うん。……と、私ちょっと用事思い出しちゃったから優、先に会社に戻ってて?」
「え? あ、うん」
さくらは一方的にそう言うと、優の返事も漫ろに、公園内のトイレへと直進して行く。
そしてトイレの裏手側の茂みを覗きこむと、やはりあの男がいて、空を見上げて黄昏るように地面に座りこんでいた。
「こんにちは」
「……三度目だな」
男はさくらを一瞥すると、小さくため息をもらす。そして視線を反らし黙りこむ。
そんな男の態度に、またもやさくらは少し苛立つ。だが、しかし。どうにも気になってしまう。
二週間近くこの男に会うこともなく、平和に過ごしていたというのに、どうしても関わらずにはいられないようだった。
つまり。さくらは、この男の姿を見るとつい話しかけてしまうのだ。



