不死身の俺を殺してくれ

 バレンタインデーも過ぎ去り、季節は三月を迎え、麗らかな春が訪れ始めていた。連日、ぽかぽかとした温かい陽気は、さくらの心を穏やかにさせる。

「ね。さくら、今日は外でお昼食べない?」

「いいよ。何処のお店で食べるの?」

 左隣の席にいる優に声をかけられたさくらは、ふと社内の壁に掛けられている時計を見やる。時刻は午後十二時七分辺りを指していた。そういえば先ほど昼のチャイムが鳴っていたなと気付く。

 パソコンの画面をスリープモードにして、両手を上げて軽く伸びをする。優の手には、何やら少し大きめの紙袋が握られていた。

「実はね、お弁当作ってきたんだけど、試食して欲しいなーって」

「え? 私が食べていいの?」

 さくらが問い返すと、優はふわりと微笑みながら頷いた。

「優の手料理……嬉しい! ぜひ、有り難く頂きます」

「ふふ、良かった。じゃあ、コンビニで飲み物とか買って近くの公園に行こう?」

 二人は会社の近くにあるコンビニでお茶を購入し、そのまま公園へと向かう。

 平日の昼の時間帯。ブランコと滑り台しかない小さな公園は、ぽかぽか陽気にも関わらず閑散としていた。

「なんか、ちょっとしたピクニック気分だよね」

「うん。幼稚園とか小学校の遠足的な感じがする。それでね、早速なんだけど、これ……」

 二人は公園内のベンチに座り、優は紙袋から手作りのお弁当を取り出す。

 さくらは可愛らしい花柄の風呂敷に、きちんと包まれたお弁当を受け取ると、風呂敷をほどきゆっくりとお弁当箱の蓋を持ち上げた。

「おお! すごい美味しそう! って、ごめんね。月並みな感想で」

「ううん。さくらは正直だから、そう言ってもらえて安心した。今日お弁当を作ってきたのはね、今度彼氏とピクニックデートをしてみようかって話になったからなんだ」

「なるほどね。五年経っても二人は円満だねー。微笑ましいよ」

 さくらは優の彼氏と何度か面識が有り、その度に幸せそうな二人を眺めては、微笑ましく見守っている。

 いつの日か、優が結婚をして子供に恵まれた時には、さくらは自分のことのように喜ぶのだろう。