不死身の俺を殺してくれ

「あ! 確かにあったかも。理由は聞かなかったから分からなかったけれど、あの時の怪我はそういうことだったのね」

 両手をぱちんと合わせ、表現を明るくした、さくらは納得の表情をする。少女の母親だけは、この状況を飲み込めずに戸惑う。

「あの……では本当に娘を……?」

「まあ、そうだな」

 煉が立ち上がり、戸惑い気味の母親と対峙する。

「あ、有り難うございました。貴方が助けてくれなければ、私の娘はきっと……。いくら感謝しても足りないくらいです」

「無事なら、それでいい」

 少女の母親は目尻にうっすらと涙を浮かべ、声を震わせながら何度も礼を重ねていた。

 ◇ 

「お兄さん、ご飯美味しかったよ! また来るね!」

「ああ、何時でも来るといい」

 煉は少女の笑顔に応える。食事を終えた親子は、会釈をしてゆっくりと店から遠ざかって行く。

「良かったね。あの時助けた子が来てくれて」

 店の玄関口で、親子を見送っていたさくらは、隣の煉を見上げる。煉は真っ直ぐに前を見据えたまま、口を開いた。

「奇跡だな。……あの少女に再会出来たのは、さくらとこの店を開いたからに他ならない。礼を言う。ありがとう」

「煉が修行を頑張ったからよ。私は傍にいただけだから」


 今年の四月に開店した桜木の煉羊羮は、煉とさくらが資金を貯蓄して、古民家を買い取り、煉自らの手でリフォームをし、手に入れた念願の店だ。

 さくらは新年度を迎える前の三月末で、勤めていた会社を退職した。今後は煉と共に二人三脚で、この大切な店を切り盛りしていく予定だ。

 大きなソメイヨシノの樹木は満開で、ひらりひらりと優雅に舞い落ちる花びらが、さくらの夜会巻きにまとめ上げた髪に付く。

「似合っているな」

「え、何が?」

「着物姿だ。さくらによく似合っている」

 煉はさくらの髪の毛に付いている桜の花びらを、そっと取り除く。大きな手のひらの上に乗せられた花びらは、突然吹いた風によって、再び宙に舞い、何処かへふわりと消えていった。

「──さくら、愛している」

「私も好きよ。……煉」

 重ね合わせられた唇に、愛を込めて。

 この先、どんな苦楽も共に乗り越え、二人が人生を、未来を歩んで行けるように願って……。


【終】