「おはよー」

「おはよう。優、この前はありがとね、残業とか色々代わってくれて。お礼がしたいんだけど、何がいい?」

 会社の更衣室には、すでに優がおり、始業前の準備をしていた。こうして、優とまともな会話をするのは、少し久し振りな気がする。

 約一週間程前の私は、煉のことで精一杯で、酷くやつれていて、仕事も儘ならないほど憔悴しきっていた。そして、その仕事の穴を全て埋めてくれていたのは、他ならない優だった。

「え? いいよ、お礼なんて気にしないで。……それより、彼氏さんはもう大丈夫なの?」

 何処か不安げな表情で、さくらの様子を窺う優は、躊躇いがちに訊ねる。

「うん。お陰様で、無事退院しました」

 空気が重苦しくならないように、努めて明るく振る舞い笑顔を向ける。八重樫から、さくらの事情を掻い摘まんで聞いていた優は、少しほっとした表情を見せた。

「良かった……」

「たくさん、迷惑を掛けてごめんね。……心配してくれて、本当にありがとう」

「ううん。そんなことないよ。不謹慎かもしれないけど……さくらが私を頼ってくれて、本当は凄く嬉しかった。さくらは、一人で何でも抱え込んじゃうから。なのに、何も出来ない、頼って貰えない自分が情けなくて、ずっと嫌だった。だから、お礼を言うのは私のほうだよ」

 優しさが溢れ出す優の柔らかな笑みに、さくらの心には温かな感情が滲み始める。