煉が千歳に助けられた、あの日から約二年後のことだった。

 何時ものように煉は二人分の食料を買い出す為に、千歳の自宅から少し遠い村まで、一人、足を運んでいた。その時に、あの忌々しい事件は起こった。

 煉が買い出しを終えて帰宅した時、千歳の自宅は盗賊が入ったように無惨にも荒らされており、そこに千歳の姿は見当たらなかった。

 茫然自失としていると、一枚の紙が玄関の(かまち)に、ひらりと舞い降りた。

 紙を拾い上げ、文字に目を滑らせる。

 そこに書かれていたのは、謎の不老不死の人間を匿っている千歳を重要参考人として、国の警官隊が連行したと記されていた。

 一体、いつから気づかれていたのか。今、思い返してみても原因は解らなかった。そもそも、千歳は知らなかったはずだ。俺が不死身だということを。ならば、俺を不信に思った他の誰かが国に密告したのだろう。それ以外、考えられなかった。

 そして俺が駆けつけた時には、すでに手遅れで、千歳は処刑されていた。

『この女は一度も口を割ろうとはしなかった。お前の居場所を素直に吐けば、こんなことにはならなかったはずなのになぁ?』

 にやにやと嫌味たらしい笑みを浮かべながら、千歳の処刑を指示したであろう男は、のこのこと罠に掛かりに来た煉を嘲笑っていた。
 
 俺を匿ったせいで。俺がいなければ。

 声にならない慟哭が、沢山の後悔が、涙となり煉の頬を伝った。
 
 そして煉は何度も何度も千歳への懺悔を口にしながら、多くの見物客の前で斬首された。

 あの時、そこで死ねたなら俺はどんなに良かったのだろう。

 だが結局は死ねずに、気がつけば煉は再び命を吹き返していたのだ──。