「ほんと、お前は朝からよく食うな」

目の前に広がる焼き魚と卵焼きと出汁の効いたシジミの味噌汁などなど、普段は朝からこんなに食べないけれど、私の食欲は何でもござれと旺盛だ。

「ここのホテルは本当に料理がすごい美味しくて、そういうところをグイグイPRポイントとして推していこうかなと……グルメ女子にはツボですよきっと」

「朝食の写真は撮ったか?」

「はい、バッチリです」

人差し指と親指で輪っかを作って見せると、安西部長はクスリと笑った。すると。

「あの、お食事中にすみません。よろしければどうぞこちらをご覧ください」

女性従業員が一枚の紙を持ってきて、にこにこ顔で私に手渡した。それは花火大会開催のお知らせのチラシだった。色鮮やかな花火の写真が目を引く。

「カップルプランのお客様には特典サービスで浴衣を貸し出ししておりますので、お出かけの前に受付にお声がけください」

「ありがとうございます」

今夜は花火大会のイベントが催される予定になっている。もちろん私も密かに楽しみなんだけど……。

若干の不安と期待を込めた目でチラッと様子を窺うと、彼は負けを認めたようにため息をついた。

「ああ、わかってるよ」

安西部長は人混みが嫌いだ。きっとごった返した花火大会の会場を思うと鬱々とした気分になるのかもしれない。ムスッとした表情で白菜の漬物をパクっと口に運ぶと箸を置いた。