冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました

「ごめん、その……いまさらだけどひとこと謝りたくて」

謝る? 私をこれ以上惨めにさせるつもり?

バッグの取っ手をぎゅっと握りしめ、視線を床に落とす。取り繕ったような謝罪ほど、今の私を逆なでするものはない。

「結婚おめでとう。幸せになってね」

健一に向き直り、にこりと作り笑いをして椅子から立ち上がる。誰が見ているかもわからないところで、こんな話をいつまでもしたくない。

「二股なんてかけるつもりじゃなかったんだ、本当は。けど……実は相手が妊娠しちゃって、男として責任取らなきゃだろ? だから――」

ふぅん、“ほかに好きな人ができた”じゃなくて“ほかに結婚する相手ができた”って言ったのはそういうことだったのね……。

「もういいよ。二股かけるつもりじゃなかったら、じゃあ、どういうつもりだったのなんて聞くつもりもないし。それから金輪際私のこと瑞穂って下の名前で呼ばないでくれる?」

ふつふつとしたものが今にもこみ上げてきて、こんな情けない男と一年も付き合っていた自分に腹が立った。

それに「男として責任取らなきゃだろ?」だなんて、そんなこと元カノの私に言う? 無神経すぎる!

「じゃあね」

足早に健一の横を通りすぎようとしたとき、いきなり未練がましく腕を掴まれた。結婚して家族もできてこれから幸せな家庭を築こうというのに、まだ心残りがあるのだろうか。

「放して」