「ちょっと待ってよ、せっかくだしちょっと話して行かない? そんなに警戒しないで欲しいなぁ」

この期に及んでまだなにか話すことがあるのか、私は掴まれた腕を振り払う。

「いきなり腕を掴まれて、警戒しない女性なんていないと思いますけど?」

キッと睨んだつもりだったけれど、佐々岡さんは平然として笑顔を崩さない。その態度がふてぶてしくて苛立ちが沸き起こった。

「ふぅん、君って案外気が強い子だね、やっぱり僕の好み」

「佐々岡さんの好みなんて聞いてませんから」

語尾にハートマークがつきそうな甘い声音で言われ、さきほど温泉で身体の芯まで温まったはずなのにぶるっと嫌な寒気がした。

「ねぇ、君って、本当に安西のただの部下なの?」

佐々岡さんが腕を組んで無遠慮な質問を投げかけてくる。私は顔色を変えないように努めて平静を装った。

「どういう意味ですか?」

佐々岡さんの見透かすような視線に目を反らしそうになる。けれど、ここで反らしたら負けだ。

「ただの部下って言いながら、彼のこと気になってるでしょ?」

「え?」