「お客様はどちらからですか?」

「東京からです。仕事……いえ、観光で」

うっかり「仕事で視察に来ている」なんて言いそうになってしまい、慌てて言葉を濁した。すると彼女は観光と聞いて、なにか思いついたような表情でにこりとした。

「明日、夜の八時から花火大会があるのをご存知ですか? すごく綺麗ですよ、屋台とかも出ていて……是非お立ち寄りください。カップル限定プランですと無料で浴衣を貸し出しておりますので」

「えっ、浴衣?」

カップル限定プランにそんな特典があったなんて……知らなかったなんて言ったら安西部長に怒られそう。

「それは楽しそうですね、教えて頂いてありがとうございます。あ、そうだ自販機ってどこにありますか?」

やっぱり自分で探すよりも従業員に聞いた方が早い。私は会釈して後にしようとする彼女に尋ねると、案外、ウロウロせずとも部屋のすぐ近くに自販機コーナーがあることがわかった。

花火大会かぁ……安西部長、一緒に来てくれるかな?

浴衣のレンタルがカップル限定プランの特典だってこと、安西部長はなにも言ってなかったけど、気づいてないわけないよね? 

浴衣を着て、安西部長と楽し気に花火を鑑賞している妄想が膨らんで慌てて掻き消す。

とにかく、早く飲み物買って安西部長に花火大会のこと話してみよう。