来週の熱海視察、健一と一緒に行くんだった! しかも泊りでふたりきり! ……あ~最悪。

「う、うん。でも仕事だからね」

あはは、と平静を装って乾いた笑いを浮かべるけれど、私の心は複雑で穏やかじゃなかった。
これは一発叫ばずにはいられない。

私はオフィスを出て、ツカツカと非常階段へ向かった。

健一の馬鹿! 健一の馬鹿!

もう、朝からほんと最悪!

今にも飛び出しそうな暴言を堪え、勢いよく外付けの非常階段へ出ると新宿の街が目の前に飛び込んでくる。

ここは五階。普段は誰もこない忘れられた場所だ。それをいいことに私は手すりに両手をかけ、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すように勢いよく叫んだ。

「健一のバカヤロー! 女ったらし! 二股最低男! 呪われろーっ!」

すべてを出し切り、肩を下げて息をつく。

はぁ……スッキリした! ほんの少しだけね。

非常階段側の下は裏路地になっていて朝のこの時間帯は人通りも少ないため、不審な目で見上げる人もいない。だから私はこうしてときどきここで密かにストレス発散している。非常階段はその絶好の場所だった。

肩にかかる髪が夏の風に揺れると急に虚しくなってきて、じわっと目頭に熱を帯びた。こんなところで泣いたってしょうがない。「誰も見てないんだから泣いちゃえ泣いちゃえ」という誘惑に揺れそうになったそのとき。

「おうおう、ずいぶん派手なストレス発散法だな」