そんなふうに言ってくれるのはありがたいけれど、上司が運転する横で寝るなんてさすがに気が引ける。

なんだかんだ言って安西部長……優しいところあるんだな。

密室にふたりきりなのが気まずくて、それで資料を読んでたら車酔いしたなんて言えないよね……。

「その飴、俺にも一個くれ」

「あ、はい。ちょっと待っててくださいね。あーん、してください」

安西部長は運転中だし、こういう場合、気を利かせて私が食べさせてあげたほうがいいんだよね?

包み紙を取った飴を安西部長の口元に持っていく。けれど、安西部長はそれを見てなんだか困ってる様子だ。

「おいおい、こんなオジサンにあーんなんてさせるなよ、恥ずかしいだろ」

思いのほか赤くなって動揺する安西部長が意外で、私は思わずクスッと笑ってしまった。

「お前、今笑ったな? いつの間にそんな生意気になったんだ」

「え? あっ」

不意を突くように、私が差し出した飴を安西部長が素早くパクリとする。一瞬、彼の柔らかい唇が指に触れて腰が浮きそうになった。

「なに赤くなってんだ? お前があーんしろって言ったんだろ」

「べ、別に赤くなってなんかいません!」

パン!と両手を頬にあてがうと、言い逃れできないほど頬に熱を持っていることに動揺する。ニヤッと笑う安西部長にそっぽを向いて、私は遠目に見える水平線をじっと眺めた。

口の中で転がる飴が甘酸っぱい。それはなんとなく“恋”の味に似ていた――。