「もしかして、俺の運転が荒かったか?」

車を駐車場に停めると安西部長がシートベルトを外しながら財布を手にし、心配げに顔色の悪い私を覗きこむ。

「いいえ、私が悪いんです。車から降りて新鮮な空気を吸えばすぐに治りますから」

まだ目的地にも着いていないというのに迷惑をかけてしまった。しゅんとしている私の頭に安西部長の大きな手が載せられる。

「ちょっと待ってろ」

そう言うと、彼は颯爽と店の中へ入って行った。

残された私はよろよろしながら車から降り、新鮮な空気を掻きこむように思い切り深呼吸をした。なんとなく潮の香りのする空気を胸いっぱいに吸い込んで、肺の底から息を吐きだす。目を(すが)めて空を見上げると抜けるような青い空にゆっくりと白い雲が流れていた。

はぁ、なんとか大丈夫そう。

少し身体をストレッチしてから再び車内に戻る。そこへ安西部長が炭酸飲料と飴を手に戻ってきた。

「ほら、車酔いには炭酸飲料がおすすめだ。後、これでも舐めとけ」

「ありがとうございます」

車酔いしたときに冷たい炭酸を飲むと、胃の調子と自律神経を整えてくれるという話は聞いたことがある。ピリピリしたのど越しにハァと息をつくと、手渡された飴を口に放り込んだ。

「落ち着いたか?」

「はい、なんとか。もう大丈夫です」

「ここからまだ一時間くらいはかかるから、適当に寝てろ」

コンビニを後にし、車が再び走り出す。