冷徹御曹司と甘い夜を重ねたら、淫らに染め上げられました

わざと剣のある口調で言うけれど、健一は私の腕を放すどころかぎゅっと力を込めてきた。

「今朝、部長に呼ばれて視察のこと、聞いたよ。俺たち一緒に行くはずだっただろ? もしかして、同行者の変更を申し出たのか?」

「そんなことするわけないでしょ! 安西部長が決めたことよ。健……柊君にしかできない仕事を受けたからって。よかったじゃない、仕事の腕は買われてるみたいで」

変更を申し出るなんて言われて心外だった。嫌味たっぷりで言い放つとますます苛立ちが募り、気持ちが乱れる。

健一も安西部長から『君にしか任せられない』とでも言われたのか、それ以上視察については食いついてこなかった。それに彼自身にも後ろめたさがある。いまさら変更を覆すことはできないだろう。

「俺も自分でどうしたらいいのかわからないんだ。瑞穂のこと……忘れられな――ッ!?」

彼が言い終わらないうちに私の中で何かが切れた。それと同時に私はなんの躊躇もなく健一の頬を思い切りバチーン!とひっぱたいていた。

「これ以上仕事以外で関わろうとしたら、今度はグーで殴るわよ」

叩かれたままの状態で健一は放心している。もう彼と話すことはなにもない。さよならだ。
私はオフィスを飛び出し、廊下で乱れる鼓動をなんとか落ち着かせエレベーターホールとは逆の方向へ歩き出した。