「ちょっ、ちょっと待ってください。すぐに映像を消してください」
「消去か。どうやるんでしょう。やり方がわからないんですよね。
顔にモザイクかけときます。いいソフトがあってね、すぐにできるんですよ。
カチャッ、と。ほら、一瞬でできるでしょ」
にこやかな顔をして、彼はパソコンの映像を私に見せてきた。
確かに、顔にはモザイクがかかっていた。
私の顔にではなく、上司の顔に、である。
苦痛に歪む私の顔は晒されたままだ。
「私の顔にモザイクしてください!」
「まあまあ、焦らないで。加害者にもプライバシーは必要でしょう」
「っていうかモザイクかけるくらいなら、さっさと動画消してください!」
「だから、先程言ったでしょう。消し方わからないんですよ」
「モザイクかけられるのに、動画消せないって何なんですか?
もういいです、私にパソコン貸してください」
「あ、それは無理です。僕のパソコンなんで」
「そんなこと言ってる場合ですか? いくら事故とはいっても、こんな事態、許されませんよ」
自分で「事故」という言葉を使ったが、事故で映像が流出したようには思えなかった。
目の前の男は冷静などころか、にやりと口角を上げて、楽しげな様子さえある。
この人は、わざとやっている。
意図的に映像を流したのだ。
どうして?
「許されない?
ただのパソコンの誤作動ですよ。ウイルスのせいかな。僕は何もしていない。
こっちもね、盗撮するような女にとやかく言われる筋合いはないんですよ」
「なんですか、その言い方!
そちらのアドバイスに従って動いたんですよ、私は。
映像が流出するって……。お悩みコールセンターですよね。こんなこと、あっていいんですか。
他の職員に言いつけますよ!」
言いながら、私の目には涙が浮かんでいた。声も震えてしまっている。
彼は白い歯を覗かせながら、そんな私を見つめていた。
「他の職員なんて、いないんですよ。
お悩みコールセンター、ね。
コピー文、読みましたか?
『パワハラ、セクハラ等に関するあなたのお悩み、お伺いします。
誰にも言えずひとりでお悩みの方は、気軽にお電話ください』
そう書いてあったはずです。
こっちはね、伺うって言ってるだけなんです。つまりね、話聞くってだけ。
相談に乗るとか解決に協力するなんて、ひとことも言ってませんよ。
言った通りです。
人が嫌がったり苦しがったりする様子に興奮してしまうやつがね、いるんですよ。
絶望に歪んだ今のあなたの顔なんて、たまらないんでしょうね。
わかるなあ、その気持ち」
「消去か。どうやるんでしょう。やり方がわからないんですよね。
顔にモザイクかけときます。いいソフトがあってね、すぐにできるんですよ。
カチャッ、と。ほら、一瞬でできるでしょ」
にこやかな顔をして、彼はパソコンの映像を私に見せてきた。
確かに、顔にはモザイクがかかっていた。
私の顔にではなく、上司の顔に、である。
苦痛に歪む私の顔は晒されたままだ。
「私の顔にモザイクしてください!」
「まあまあ、焦らないで。加害者にもプライバシーは必要でしょう」
「っていうかモザイクかけるくらいなら、さっさと動画消してください!」
「だから、先程言ったでしょう。消し方わからないんですよ」
「モザイクかけられるのに、動画消せないって何なんですか?
もういいです、私にパソコン貸してください」
「あ、それは無理です。僕のパソコンなんで」
「そんなこと言ってる場合ですか? いくら事故とはいっても、こんな事態、許されませんよ」
自分で「事故」という言葉を使ったが、事故で映像が流出したようには思えなかった。
目の前の男は冷静などころか、にやりと口角を上げて、楽しげな様子さえある。
この人は、わざとやっている。
意図的に映像を流したのだ。
どうして?
「許されない?
ただのパソコンの誤作動ですよ。ウイルスのせいかな。僕は何もしていない。
こっちもね、盗撮するような女にとやかく言われる筋合いはないんですよ」
「なんですか、その言い方!
そちらのアドバイスに従って動いたんですよ、私は。
映像が流出するって……。お悩みコールセンターですよね。こんなこと、あっていいんですか。
他の職員に言いつけますよ!」
言いながら、私の目には涙が浮かんでいた。声も震えてしまっている。
彼は白い歯を覗かせながら、そんな私を見つめていた。
「他の職員なんて、いないんですよ。
お悩みコールセンター、ね。
コピー文、読みましたか?
『パワハラ、セクハラ等に関するあなたのお悩み、お伺いします。
誰にも言えずひとりでお悩みの方は、気軽にお電話ください』
そう書いてあったはずです。
こっちはね、伺うって言ってるだけなんです。つまりね、話聞くってだけ。
相談に乗るとか解決に協力するなんて、ひとことも言ってませんよ。
言った通りです。
人が嫌がったり苦しがったりする様子に興奮してしまうやつがね、いるんですよ。
絶望に歪んだ今のあなたの顔なんて、たまらないんでしょうね。
わかるなあ、その気持ち」
