さらにその翌日。

前日、残業で遅くまで働いた私は午前の休みをもらっていた。
なので、午後からの出勤である。

交差点を渡っていた。
昼間もやはり、人で群れていた。

着信が鳴った。
思わず、体がびくっと震えた。
携帯を確認すると、あの番号だ。

時間帯でかけてくるわけじゃない。
昨日は午前、今日は午後である。
私が交差点を渡る頃合を、しっかり見計らっているのだ。

尾けられてる?

私は立ち止まり、周りを見渡した。
ただただ人々が途絶えなく、通り過ぎていくばかりだ。
そして大きなビル群が、私を見下ろしている。

着信に出て、その男が話しだす前に私はまくしたてた。

「どういうこと? あなた誰なの? どっからか見てるの?」
「君を捕まえちゃいたいよ」
「なにいってんの気持ち悪い、また電話かけたら警察に連絡するよ」
「もう、捕まえちゃおうかな」
「捕まえる? バカじゃないの」
「うん、決めたよ。今すぐ君を連れ去っちゃうね」
「は? こんな人ごみで人連れ去ろうとしたら、誰かが止めるに決まってるでしょ。あんたの方こそ警察に捕まって終わりだよ」


「わかってないなあ、君は。
群れの中にいる一人のことなんて、誰も気にしちゃいないんだよ。一人消えたところで、誰も気づかないさ。
君を見ているのは、僕だけなんだからね」