23時30分。




椅子に座り、うつらうつらと項垂れながら、自分は夕食には手を付けずに健気に彼氏の帰りを待つ優子。


ガチャっ、と玄関の扉が開けば、まるで飼い主の帰りを待っていた柴犬のように見えない尻尾を振って、俺を出迎えに玄関に走った。


「あ! 智くんおかえりなさい!」


「ゆっ、優子?! なんでお前、まだいるんだ? 帰るか先に寝てろって電話で言っただろ。」


自分では気付かなかったが、玄関に漂う酒と、タバコの香り。


こんな時間まで彼氏が何をしていたのか一瞬で悟った優子は、それでも嫌な顔一つせず俺の鞄を手に取り、リビングに向かった。

「うん、まぁ……そうなんだけどね。あ、残業してたならお腹空いてるでしょ?」


「いや、ちょ、……」

「丁度良いもの作ってたんだー。そこ座って待ってて」



やっと大好きな人が帰って来た、そんな雰囲気が全身から溢れ出していて。


これ以上、彼女の姿を見ているのは正直辛い。


「結婚したら、毎日こんな風に智くんのご飯作ってあげたいな」


やっと会えた嬉しさからポロリと出た何気無いそんな一言に、死にたがりの現実世界の俺は、苛立って。


「…………俺だって、」

「え?」

「俺だって、結婚したいさ。けど、今は金銭的にも無理なんだ……。前も言ったろ、分かってくれよ」


彼女を、傷付けて。


「……じゃぁ私は、いつまで待てば良いの? 貴方が出世するって、5年後? 10年後? いつまで待てば良いのよ!」



ハッと我に返った優子は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にするも。