10月5日、午前7時00分。


人の話を聞かない閻魔大王に連れられてやって来たのは、前田課長のご自宅だった。


「なんで俺が、課長の家なんかに……」


天井付近をふわふわと浮遊しながら不満気にそう呟くと、少女が「煩い、ゲス野郎」となじってきた。


「まぁまぁ、見てなよ」


課長はスーツを羽織り、玄関まで見送りに来ている奥さんが手にしている鞄を受け取る。


「じゃぁ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


両者互いに顔を近づけて、まるで新婚夫婦のような行ってらっしゃいの短いキスを交わした。


え、課長って会社ではあんなに嫌な奴なのに、こんなことすんの?


胸に、なんとも言えない嘔気が込み上げてくる。


「ゔおぇぇぇ。おい、閻魔、お前フザケんなよ! こんなもん見せるために俺はまた10月5日を繰り返してるのか?!」


可愛い顔して金髪少女は「煩い、豚野郎」とさらなる暴言を吐いた。



「君はちょっとくらい静かに出来ないのかな? 本番はここからだよ、ここから」