男と女の結婚への価値観は相違が生じる、そんなことは薄々理解出来ていたつもりだった。


そして優子もそれを理解してくれているだろうと、傲慢になっていた。


けれどそれすらも、すれ違っていたようだ。



ハッと我に返った彼女は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にする。



喫煙所での後輩たちの会話と、帰り際の課長の台詞が脳内で交錯する。


仕事が上手くいっていないこの状況で、これ以上彼女の時間を奪うことなんて……あまりにも酷なのではないか。




「なぁ、優子」


(嗚呼、そうだった)


俺はこの時、言ってはいけない台詞を、間違った言葉を優子に伝えてしまったんだ。



「……優子の気持ちは分かった。そんなに早く”結婚”がしたいなら、俺と別れて違う男と付き合ってくれ」



「……っ!」

唇を噛み締め、悲痛な表情で項垂れたかと思えば、取り出そうとしていた皿に貼っていたサランラップのゴミをパシンッと顔面に投げ付けられた。



「……智くんの、馬鹿っ」



鞄を手に取り駆け足で玄関へと向かった彼女は、そのままの勢いで家から飛び出して行ってしまった。