「やっぱり昨日、家に来たんだね」

「ごめんなさい。行くべきじゃなかった」

私は俯き、自分の手を握りしめた。

「美結雨、聞いてくれる?」

雷斗は私の手を握った。その手があまりにも温かくて、涙が出てしまった。私は言葉にならずただ頷くだけだった。

「昨日、美結雨が見た女性は、杉本菜々恵っていって大学時代の仲間なんだ」

やっぱり付き合っていたのか?確か、付き合う前に映画館で雷斗のスマホを見つけた時に着信通知に菜々恵って表示されてた。ずっと連絡を取り合っているってことだよね?

はぁ~っ。

私に勝ち目はないんだ。わかっていたことだけに余計辛い。でも雷斗の話はちゃんと聞かなきゃ。全部受け止めないと前に進めない。

「話を続けて......」

「大学時代に告白されて、でも俺は恋愛感情はないから断ったんだ。その後は会社を立ち上げて毎日が忙しくて、恋愛をする暇もなかった。スマホはずっと変えてなかったし、気にもしていなかった。前に美結雨に忘れてたスマホを受け取ったとき、着信が表示されてびっくりした」

「......うん。あの時、菜々恵って表示見ちゃった。やっぱり彼女がいるんだって思った」

「ごめん。俺、けっこう面倒くさがりでスマホの整理全然しないから登録もそのままなんだ」

気まずそうに私の様子を伺う。

「......私もそういうところあるから」

そういうのが精一杯だった。これ以上嫉妬したくなかった。

「昨日、接待だったのは本当だ。取引先の会社の秘書として現れたのが、杉本さんだった。俺は、美結雨に会いたくて早く話を進めた。その甲斐あって予定より早く終わりにすることができた。帰宅して、美結雨にメッセージを送ろうと思ったが着信が入った。それが杉本さんだった。大事な資料を渡したいと言われマンションの近くまで来ていると言われた。きっと俺の後を付けていたんだと思う」

「えっ?大丈夫なの?」

私は少し怖くなってしまった。モテる男はそうやってあとを付けられたりするのだ。確かにお兄ちゃんもよく知らない女に家の近くで待ち伏せされたとか言っていた。私はそういう経験がないからわからないけど。

「大事な資料がある、から会わないわけにも行かず、会うことにしたんだ。それにハッキリと言わないとわからないと思ったんだ。そうしたら家の近くどころかマンションの前まで来ていて、迷惑だった」

「迷惑だったのに何で抱き合っていたの?」

「いきなり駆け寄ってきて抱きつかれた。だからどうすることも出来なかった。その後、告白されたが断った。俺は今結婚を考えている人がいるって伝えた。これからは俺に関わるなとも言っておいたし、これからは会うこともないから」

「でも取引先でしょ?」

「大丈夫。俺が行かなくても有望な副社長がいるからね」

私を安心させるように優しく笑った。