お互いの全部を知ったら、もっと欲深くなる。ずっとそばにいて欲しい。幸せってこういう気持ちなんだと知った。仕事は好きだ。だから仕事人間になっていても苦ではなかった。

でももう1つの幸せを知った。なら、仕事も恋愛もパーフェクトにこなす。俺の気持ちをすべて美結雨に捧げる。

今日は土曜日。休みだから急遽、取引先の接待が入った。美結雨には遅くなると伝えておいた。明日は美結雨も休みなので一緒に過ごすことになっている。早く美結雨に会いたい。

なのに、アイツがいるとは......

取引先の相手の会社は、菜々恵がいる会社だった。俺は、アイツが秘書をしていることを知らなかった。うちの会社の副社長兼秘書をしている暁斗も知らなかったらしい。

菜々恵は大学時代の仲間だった。告白されたこともあったが、仲間と恋愛関係になりたくなく断った。それに好きではなかった。その後も卒業まで仲間としてら遊んでいた。

会社を立ち上げてからは連絡は取っていなかった。

だが、数ヶ月前久しぶりに着信が......

あっ、思い出した。

あの時、確か映画館でスマホを落として美結雨が見つけてくれた時に、菜々恵から着信があった。連絡先をそのまま登録したままだったから菜々恵と通知されていた。

美結雨は俺に彼女がいるとでも思ったかな?

後できちんと美結雨に話しておこう。こんなことで美結雨を失いたくない。

俺は淡々と仕事の話をし、予定よりも早く終わった。暁斗と途中で別れ、俺は自宅へ向かった。

着替えて、リビングでくつろいでいると着信が......嫌な予感がした。

美結雨ではないのは明らかだ。また仕事中なのだから。

「やっぱり......」

着信は菜々恵だった。

「......はい」

「雷斗、今日はありがとう」

「杉本さんお礼を言われるのはおかしいと思いますが......」

俺は、あえて取引先の秘書として対応した。

「なんか他人行儀ね。数ヶ月前に連絡したばかりなのに」

「あの時も今とあまり変わらないですが、それよりどんなご要件ですか?私も忙しいので......」

馴れ馴れしい。何を企んでいるのか?
俺は警戒した。

今日、渡そうと思っていた書類を渡しそびれたらしい。重要な書類なので今日中に目を通しておいてほしいと社長から指示があり連絡したというのだ。俺ではなく、暁斗に連絡してくれと言ったのだが、俺の家の近くに今いるからその方が早いという。

「クソっ」

菜々恵に家を知られてしまった。
きっとアイツのことだから俺のあとをつけたんだろ。大学の時もそんなことがあった。俺が住んでる近くのコンビニにで偶然会って、それから頻繁に会うから不思議だと思って、仲間に聞いたら菜々恵の家は全然違う方向だった。

今回もこれから頻繁に家の周りで会うようなことになったら、美結雨が勘違いしかけない。それだけは避けたい。

とにかく、どうにかしなければ......