「あの、これを、君に……」


僕は白い布でくるんだそれを、佳穂に渡した。


「あたしに?」


手元につきつけられた白い包みを、佳穂は戸惑った様子で開いた。


「これ……」


中には、小さな赤とんぼのブローチが一つ。
僕がこつこつと彫って、色を塗った拙いものだ。


「びわを失って、何もする気が起きなくて、その時に作ったんだ」


僕は言い訳がましく言った。


「気晴らしというか、寂しさを紛らわす為でもあったんだけど、その、君を思い出して……」


松葉杖を握る手にじとりと汗をかきながら、僕はまくしたてるように言った。

ちらちらと顔を窺うと、佳穂は手のひらに収まる不格好なブローチをじっと見つめている。