どの位、そうしていたのだろう。
にゃあ、とびわが鳴いた声に、僕は打たれたように現在へと戻った。
ぱっと膝元を見ると、びわが僕を見上げていた。


「ああ。ごめんよ」


僕は新しい枇杷の皮を剥いて、さっきと同じようにして口へ運んであげた。


「すまないね。ぼんやりしていたようだ」


僕は佳穂にも詫びた。
ソーダ水の中で揺れるビー玉を見ていた佳穂は、僕の顔を覗き込んで聞いた。

「昔を、思い出していたの?」


「少しだけね。もう思い出す事なんてないと思ってたんだが」


僕は瓶を傾けて喉を潤し、ふう、と一息吐いた。


「思い出って、どんな?」


「うん? 他愛のない、つまらない話さ。君を退屈させてしまうだけだよ」


「あら、聞きたいわ。いつの話?」


「本当に退屈だよ。僕がまだ子どもの時分の話さ」