「昔は、この瓶の中のビー玉を取るのに必死になったものだったがな」


プラスチックの蓋を瓶の口に押し当てると、ぱこっという音と共にビー玉が抜けた。
小さな気泡が幾つも湧き上がり、白い泡が瓶から溢れ出そうとするのを慌てて口で受け止める。

しゅわしゅわと喉を弾けながら流れ落ちていく冷たいラムネは、僕の思い出の味より少し甘かった。

もう一口、ゆっくりと口に流しこんだ。


「そうか、そうだったな。こんな味だったんだな」


「懐かしい?」


「うん。懐かしい」


蝉の声がまた、遠くから響き始めた。
僕はもう汗をかきだした瓶を脇に置き、空を見上げた。

遠く、高い空。溢れるラムネの炭酸のような雲。



ああ。


目を閉じる。
今は古びてからからに渇いてしまった思い出が、こんなにも鮮やかに蘇る。