僕の庭

「あら。朝が楽しみなんて、素敵じゃない。
それに、朝顔の蕾って、開くのが楽しみなものじゃないの?」


佳穂が不思議そうに僕を振り返った。


「そうか。そうなのかな?」


「そうよ。なぁに? もしかして、いい年して恥ずかしい、なんて思ったりしたのかしら?」


隣で気だるそうに眠っているびわの背中を撫で、佳穂は悪戯っぽく言った。


「……い、いや。恥ずかしいとか、そういう訳ではないんだが、その」


僕は何だか急にそわそわしてしまって、慌てて筆を握り直してキャンバスに向かった。
濃紺の朝顔にまた筆をのせていると、くすくすという笑い声がして、そっと窺うと佳穂が可笑しそうに体を丸めて笑っていた。


「可笑しい、かな?」


「ううん、ごめんなさい。そうじゃないの。
ただ、そんな当たり前の事を今更あなたが気付いたのかと思うと、なんだか笑いがでちゃう」


佳穂はしばらくくすくす笑いを続けていた。
僕は何だかむずがゆいような、面はゆいような感覚に襲われて、どうにかしかめ面を作りながら筆を動かし続けた。