忘れるはずがない。
忘れられるはずもない。


君は僕の愛しい妻。


「いつから、気がついてたの?」


「確信したのは、二枚目の絵を描いている時だよ。あまりの事に、信じられなくてね」


僕は垣根越しに現れたあの日の花保理を思い返した。
いつかの、情けない僕の元へやってきてくれたあの日と重なる。
僕はあの時、時空が繋がったかのような錯覚を覚えたのだったか。


「花保理、と呼べば君が消えていなくなる気がしていた」


僕は花保理の涙の溜まった瞳にそっと手をのばした。触れる前に手を止め、花保理に尋ねる。


「僕は相変わらずの、臆病で情けない男のままなのだと分かったよ。ねえ、君に触れても構わないだろうか?」


返事の代わりに花保理が微かに微笑むと、涙の粒がころりと一粒溢れた。
僕はそれを指で拭い、僕を見つめ返す花保理に言った。


「君から見れば、僕はしわくちゃのおじいさんだろう。がっかりしただろうね」