花保理はどこにもいない。

おじさんに連れ帰られた家には、やはり花保理はいなくて。
箱に収まる、カタカタと小さく鳴るそれが花保理なのだと、おじさんは真剣な顔で言った。


分かっているんです、僕は小さな声で言った。
彼女はいないって、頭のどこかではちゃんと理解しているんです。

けれど、それを簡単に認めたくない。
僕の中では花保理はあの日見送ってくれた元気な姿、あの姿なんです。
亡くなった彼女なんて見ていないし、知らないんです。


おじさんはそれを静かに聞いてくれた。
そして、それを人は乗り越えていかなければならないんだよ、と言った。


それは僕にとって、何の救いもない言葉だった。愛する人の死、僕はこれを何度乗り越えればいいんですか?
僕は、何度失えばいいんですか?

けれど、おじさんが僕を心配するその気持ちは痛いほど感じられて、僕は黙って頷いた。