「しくじったな…」
帰りの舟で加藤は神妙な面持ちで言った。
「…そうかも知れないね…」
秀頼も戸惑っているようだった。
「そんなこと言ったってどうすりゃ良かったって言うんですか!」
重成はややキレ気味だ。

京の民衆にこれだけ愛され支持されている。
これを実感できたのはありがたく幸せなことだった。
しかしそれを見た時の家康の凍りついた眼はおぞましいものがあった。
今後も友好的に過ごし、両家が協力しながらの政治体制を創り上げていけるかも知れない、
とそう思っていたが…一瞬でそれは無理だと思い知らされた。
人の心とはこうも瞬時に変化してしまうものなのか…。

「でも、今回のことで僕はやっと外の世界を知ることができた。
豊臣家の可能性も感じることができたし、徳川家とは今後良い関係で居続けられるように努力していかなくちゃいけないことも分かったし。
本当に京に来れて良かった。
ご尽力、ありがとうございました」
秀頼は加藤や家臣団に改めて御礼を言った。

「なぁ、秀頼様。
今後もし徳川が何か難癖つけて来たら…
熊本に来ませんか?」
加藤は意を決したように申し出た。
「熊本に…?」
「先日出来上がった我が熊本城は、我ながら最高傑作です!
京都からも江戸からも遠く
幕府もなかなか干渉できない場所にありますし
兵の増強や温存もしやすい便利な所です。
城は攻守に優れていて見た目も美しい。
徳川に対抗するために力を蓄えるには絶好の場所だと自負しております」
「いやしかし…」
「今すぐにとは申しません。
しかし、頭の片隅にでも置いておいていただければ…。
それに熊本は水が豊富で美しく、食べ物が本当に美味しい豊かな地です。
物見遊山ででもいいので是非一度お越しいただきたいですね」
「ありがとう。
ではゆくゆくそのように」