「私の名前、知ってるんですか? 」


「知ってるよ。いつも男子が騒いでるから。
あ、それに話したことあったよね、入学したころ」


どこか寂しさを漂わせた瞳で小さく笑いながら
流山くんがそう言った。


「あ、あ、あ、ありがとうございますっ!」


嬉しさに震える声で、頭を下げた。



「なんで“ありがとう”なの?」



きょとんとしている流山くんに、
気持ちがこぼれた。



「名前、知っていてくれてありがとうございますっ。
あのとき話したこと、覚えていてくれて、

ありがとうございますっ」



それを聞いた流山くんは、
戸惑いながらも小さく笑うと、

映画館ヘと足を向けた。



「ちゃんと、覚えてるよ。あー、それじゃ、また」



いつもより、すこし元気のない表情で、
流山くんが背中を向けた。



「あ、あの!」