きょろきょろと辺りを見回しながら石畳みの小径を抜けると、道場が見えてきた。


ううっ、どうしようっ。

一歩足を踏み出すごとに、緊張が高まっていく。


道場にはもう、流山くんが来ているかもしれない。

そう思うと、心臓がバクバクして破裂しそうになる。

でも、目の下のクマはひどいし、肌はガサガサだし、こんな自分は見られたくない…


でも…流山くんの道着姿は間近で見たいっ。


もう緊張と混乱で、頭のなかがショート寸前…


すると、道場の扉の前で館長だという大柄なおじさんが待っていてくれた。


そのおじさんに更衣室を案内されて、道着を借りて着替えた。


「うわっ、しずく、道着を着ても華があるねえ!

オーラが半端ないっ!

色気がダダ漏れてるっ」


「これは、流山もメロメロなんじゃない?
学校の男子が見たら騒いで大変だろうねっ!」


「ちょっと!しずく、聞いてる?」


身に着けた道着をじっと見つめる。


「杏ちゃん、琴ちゃん。流山くん、この道着、
着たことあると思う?

もしかすると、一度くらいはこの道着を着て
稽古したかもしれない?」


「「はい?」」


「ほら、道着忘れちゃったときとか!

も、も、もしかしたら、私が着ているこの道着、流山くんが着た道着なのかな…と思ったら」


かあっと熱くなる顔を、手のひらで必死に扇ぐ。


すると、呆れた様子の琴ちゃんに
おでこをぺしっと叩かれた。


「しずく、いいから落ち着け。
平常心って手のひらに10回書いて」


言われた通りに、やってみる。
それでも、ドキドキはおさまらない。


すると、杏ちゃんがものすごく冷静に私を諭した。


「流山、どうみても身長180センチ超えてるよね。

しずくとはサイズも全然違うし、

あれだけ大会出てるなら自分の道着もたくさん持ってると思うけど」


そっか…
ほっとしたような、ちょっと残念なような。


「通報されたくないなら、とにかく変態ゴコロを抑えて、平常心を忘れずにっ!

一度深呼吸して!」


「は、はいっ」


琴ちゃんに活を入れられて、深呼吸。


「やっぱり一緒についてきて、よかったね」


「しずくひとりじゃ、あぶなかったね…」


こそこそ話している杏ちゃんと琴ちゃんの声は
緊張している私の耳には届かなかった。