次の駅で、隣に座っていたひとが立ち上がると、

入れ替わりに

お酒臭いおじいさんが、

おぼつかない足取りで、同じ車両に乗ってきた。


その赤く緩んだ顔つきと、ズボンからだらしなくはみ出したYシャツ、

その意味不明な独り言に

早朝の電車内に静かな緊張感が走る。



ドキリとしてそのおじいさんから目を逸らすと、

そのお酒臭いおじいさんが、

私の目の前で足をとめ、最悪なことに私の左隣に座った。


………ううっ。

ものすごく、お酒臭い。



あからさまに席を立つのは失礼だし。

……でも、どうしよう。


取り出したスマホをジッと見つめながら、
頭を巡らせる。


同じ車両に乗っている人の多くが
そのおじさんから意図的に視線を外している。


そのおじいさんは周りから浮いていることに
まったく気づかずに

ご機嫌になにやらブツブツと呟いている。



おじいさんが座っているのは私の左側。


体の左半身が緊張で強張る。


なるべく体が触れないように、体を細く長く、

少しでも座面を小さくできるように

体を上へ引っ張るように背筋を伸ばした。



電車が発車してしばらくすると、
そのおじいさんがいきなり立ち上がった。


その勢いに驚いて顔をあげると、

つぎの瞬間、

そのおじいさんは、


混んだ電車のなか突然バタンと正面に倒れた。