しずくの恋

「うーん、間違えてるっていうより、
初恋の王道をかなり大きく踏み外してる感じ?」



「バレたら間違えなく振られる…、いや、
訴えられるから、

もっと正統派な攻め方に変えたほうがいいと思う」


冷静にアドバイスを説く琴ちゃんと杏ちゃんに、
うんうんと頷く。


そっか、私、振られるより先に、
訴えられるんだ。


気をつけないと!


って、え⁈

そうなの⁈⁈


すると、杏ちゃんが机の上に肩肘つきながら
不思議そうに口を開く。


「あのさ、そもそも、なんで告白しないの?
もう2年半でしょ?

さっさと告白しちゃえば良かったのに」



「あ、私もそれ思った」




「このまましずくを放置しておくと、
取り返しのつかないことになりそうだしね?」



「そうだね…
不法侵入とか、条例違反とか起こしそう」



「職務質問は避けられないだろうね。

むしろ、今日までなにもなく過ごせてきたことが奇跡だよね」



深刻な顔をしているふたりに、
眉を寄せる。



「…どうして私の初恋が条例違反とか職務質問になるの?」




「そりゃ、言動がやばすぎるからに決まってるでしょ。

黙っていたら絶世の美少女なのに、

流山のことになると、やばいからね。
理性ぶっ飛びすぎ」



「だって、かっこいいんだもん…」



それ以外の言葉が見つからない。



「うーん、かっこいいっていうなら
他にいくらでもいそうだけどね?

ほら、隣のクラスの山内とか
背も高いし人気あるじゃん。

たしか先月告られてたよね?」



そういって、隣のクラスを指差した琴ちゃんに
静かに首を横にふる。


流山くんほどかっこいい人を、私は知らない。




「流山、彼女いなさそうだし、

いつも男子とつるんでばかりで女子と話しているところもあんまり見たこともないよね。

告白すればうまくいくんじゃない?」



大きな唐揚げを口いっぱいに頬張りながら、
杏ちゃんがそう言うと、


琴ちゃんが、うんうんと頷く。



「そうだよ、しずくからの告白を断ることのできる男なんてこの世にいない気がする」



「“そろそろ私でしょ。”とかさ。

普通なら言えないそのセリフ、しずくなら許されるよ。
是非とも聞いてみたいよね♬」



「そうそう、奇跡の美少女"しずくちゃん"なんだから!

原宿歩けばスカウトされて芸能事務所の名刺を何十枚ももらってくるようなしずくに、
落とせない男はいないって。

そんなストーカーみたいなことしてないで、
告白したほうが、手っ取り早いよ」


そんなふたりの言葉に、静かに首を横にふった。


2年半、追い続けていても、

流山くんは
私の存在にすら、気づいていない。