「本当に、綺麗な娘(こ)ではないですか」
 ロイヒテン様とは逆隣にいらした女性。国王陛下と同じ、玉座にゆったりと腰掛けている。
 王妃様。ロイヒテン様の母上だろう。
 彼女も黒髪をしていた。瞳の色は違っていて、澄んだグリーンであったが。
 ロイヒテン様はどちらかというと、父似であるようだと思わせられた。母の面影も確かに持っていたが。
「おまけに庶民の娘にしては、なかなか堂々としているわ。これなら大丈夫ではないかしら」
 母上のほうは、国王陛下である父上よりは寛容のようだ。サシャは少しほっとした。
「お前もロイヒテンの肩を持つのだな」
「あら、びくびくされて不審に思われるよりは良いではないですの」
「そうだが」
 それでも国王陛下は気に入らなかったようだ。
「よくよく言っておくが、我が王家に泥を塗ることはしてくれるなよ。客分とはいえ、ロイヒテンの婚約者に相当する立場として出てもらうのだからな」
「父上、彼女はそのようなことをされたりしません」
「そうだといいがな」
 ロイヒテン様が言ったが、ふん、と鼻でも鳴らしそうな様子で国王陛下は言った。そしてすぐに「さがりなさい」と言われてしまったのでサシャは「謹んでおいとまいたします」と、来たときと同じように丁寧なお辞儀をして部屋をあとにした。
 お辞儀をする前。一瞬だけロイヒテン様と目があった。
 その目は「ごめんな」と言っていたので、サシャはふっと笑った。大丈夫よ、と。見咎められては困るのですぐに表情を引き締めたが。
 お部屋を出て、おつきに客室まで連れていかれ、「お夕食までおくつろぎくださいませ」とまた紅茶を出してもらって、サシャは、はーっとソファに座り込んだ。
 緊張した。国王陛下に自分がご挨拶することになろうとは。
 ほんとうに、大変な事態になってしまった。
 もう何度目かもわからぬその事実を噛みしめて、今度こそサシャはソファのひじ掛けにもたれて眠りに落ちてしまった。一時間ほど眠っていただろうか。こんこん、とメイドにドアを叩かれてもすぐには気付かないくらいに、ぐっすりと眠ってしまった。