シャイに連れていかれたのは、薄暗い居酒屋だった。酒が飲めるといってもサシャの勤めるヴァルファーのようなものではない。薄暗くて、しかし照明が綺麗で、そして席もソファ席。多分、ここは恋人同士がこの秘密の席に座って、寄り添って話をするところなのだろう。
「なんか食べなよ。とりあえずさ」
 勧められたので、サシャは今度こそ「そうね。お夕飯いただくわ」と言った。夕ご飯を食べていなかったし、それにシャイもその間に思考の整理をしたいだろうから。
「じゃ、ボンゴレビアンコで」
「うん。俺はカフェで軽く食べてきたから、このジャーマンポテトとボイルソーセージと……あとワインでも一杯」
 簡単にメニューを決めて、オーダーして、その間は雑談をした。
 今日の店は、仕事はどうだったとか。
 あるいはサシャの学校はどのような様子だとか。
 いつもしているようなたわいない会話ができた、と思う。
 料理はすぐにきたし、食べるのもすぐだった。『話』が気になっていたから、食べやすいものを選んだのだ。
 くるくるとフォークにパスタを巻き付けてぱくぱくと食べていく。美味しいけれど、このあと訊くことにそわそわしてしまって、普段より味わって食べることは出来なかった。
 そのような軽い食事も数十分で終わってしまった。残ったのは、シャイの頼んだワインの二杯目と、サシャの食後の紅茶と、そしておつまみのミックスナッツくらい。話をする体制は出来た。
「で? サシャちゃんからのヒミツのお話をどうぞ」
 それでもシャイはふざけたように言った。ナッツをひとつぶ摘まみながら。無理やりいつも通りにした、という様子のくせに。
「あのね、先週末に隣町までおつかいに行ったのよ」
 それだけでシャイの目が丸くなった。それがすべての核心だったようだ。
「輸入煙草を買いに行ったんだけど、そこで馬車を見たの。王族の方の馬車。とっても豪華で……ええと、そうじゃなくて」
 話が脱線しそうになって、戻した。自分が見たものを。
「ミルヒシュトラーセ王家の、王子様とお姫様が乗ってらしてね」
 サシャがそこまで言いかけたとき、シャイが「あーっ」と声を上げて頭を抱えた。
「あー……」
 テーブルに突っ伏しそうな勢いで、シャイは頭を抱えていた。サシャはそれを見守るしかない。
 複雑だった。言わなければ良かったのかもしれない。シャイが王族の血族かもしれない、なんて憶測。きっと彼は隠しておきたかっただろうから。
「あー……うん……。バレたなら仕方ないや」
 たっぷり三分はそうしただろう。
 悶絶したあとシャイはやっと顔を上げて、言ってくれた。
「バレたからには言うけど。そうだよ。俺がロイヒテンだ」