「継承権は一位ではないのだけどぉ、それでもあの方が次期国王になられたらいいなぁ」
 まるで自分が目にしたようにビスクは嬉しそうな様子だった。
「ロイヒテン様が国王陛下になられてもなにも変わらないじゃない」
「そんなことないよー! お目にできる機会が増えるでしょ!」
 ストルがツッコミを入れてもビスクは変わらない。前向きともいえる発言をした。
「まぁ、そうねぇ」
 そのあまりにプラス思考な言葉に、ストルは苦笑する。
「ねぇ、どこでお写真を見たの?」
 サシャはそちらのほうが気になった。ビスクはどこでロイヒテン様のお姿を見たのだろうか。
「え? えーとねぇ……ミルヒシュトラーセ王家の方々について載ってらっしゃる本よ。お姉ちゃんが借りてきたの」
「へぇ……そんな本があるのねぇ」
「王家の方はよくお写真を撮られるからね」
 写真はあまり普及していないのだが、身分ある方々は確かに写真を良く撮るもののようだ。
「それ、見られるかしら」
 サシャの言葉にビスクはにやにやとした。
「なぁにー。サシャだって気になってるんじゃない」
「まぁ、……そうよ」
 本当のことを言いかけたけど、やめてしまった。どこかでお見かけしたような気がするから、なんて夢物語のようなことを。からかわれるに決まっている。
「とてもお素敵だったからほかのお写真も見てみたいの」
 もっともらしいことを言っておく。ビスクは別段不思議にも思わなかったらしく「うんうん、そうよねぇ」と言って、誘ってくれた。
「街の図書館で借りたって言ってたよ。せっかくだから、明日にでも行かない?」
「うん、見てみたい。行こう」
 サシャの返事にビスクは頷き、ストルのほうを見た。
「ストルは? 行く?」
「そうねぇ」
 ストルは少し考えたようだったが、「行こうかな」と答えた。
「お写真も拝見したいし、本も見たいわ。いいのがあったら借りようかなって」
「それは本を借りたいのがメインじゃないの?」
「いいじゃない。図書館ってそういうところでしょう」
「そうだけどー」
 ストルとビスクがわいわいと話しだして、サシャはそれを聞きつつもなんだか胸が騒ぐのを感じた。
 明日、お写真を見る。違和感の正体がわかるかもしれないのだ。
 違和感に思い当たりはなかったけれど。
 街中で見かけたひとに似ていたのかもしれない。バーのお客に似ていたのかもしれない。その程度に思っていたのだ。