「東華?」



目の前にいる東華は
額を離して緩く微笑む。



「なんて、言ったの?」



そう言えば



東華は少しだけ困った顔を浮かべ
また微笑む。



半年前によく見ていた、



一ノ瀬 桃華と同じ笑顔で



「東華?」



彼女は何も言わずに手を離す。



「東華!」



東華がスっと立ち上がると
前かがみになって倒れる。



「東華!!」



彼女が背を向ける。



俺の足は、
俺のものでないかのようにピクリとも動かない。



「東華!!!」



彼女は振り返らない。



「東華!!!!」



彼女はそのまま戸を開けて
反対側から廊下へと出る。



「東華!!!!!」



一切の物音が消える。



俺一人がここに存在しているかのように



「くそ!くそ!!クソ!!!」



なんで!



なんで動かない!!



力を入れても、



叩いてもなにも反応もしない足。



このままじゃ、



東華は消える。



俺の目の前から



わかってる、



分かっているのに、



足は動かない。



「東華!!!!!!」



涙が溜まる。



「くそ!くそ!!くそ!!!」