「智花」


先生が私のことを名前で呼ぶのは、学校の外だ。


学校の中では、先生は私に手を出すことはない。


教師と生徒の関係を忠実に守りぬいている。


こうして気兼ねなく抱き合えるのは、日曜日のみ。しかも、住んでいるところからはかなり離れたホテルで、ようやく触れ合うことができる。


それも仕事が溜まっていたりすると、キャンセル
になってしまう。先生の仕事は大変なんだ。


「智花とずっとこうしたかった」


学校とは180度違う、先生の胸にすっぽりと抱き締められる。


なんともいえない高揚感を覚えた。


やってはいけないことをしている、背徳感。


女子の憧れである三井先生を、自分のものにしている独占欲が満たされ、自分からキスをねだった。


舞い降りてくる、先生の唇。


「数学以外も、頑張らないとな」


「数学だけでいいもん」


「だめだ。ちゃんとまんべんなく伸ばさないと」


「先生みたいなこと言うー」と、私はからかう。


「学校にいるときは、な。どうしても先生になってしまう」



「まぁ、大学に行かなくても俺が貰ってやるよ」


「えっ?」


「だから心配するな」


それって、結婚ってこと?